2017年08月02日

展覧会で気に入った作品を、もう一度見たい、
と言う友人に、作家の家まで一緒について行った。

定年後、
趣味が高じて工芸品を作るようになったその男性は
小柄な痩せた人だった。
駅まで迎えにきてくれ、
問わず語りに男性は自分の事を語った。

「数年前に妻が亡くなり、
でも妻の母親と伯母が一緒に住んでいるので、
帰っても家に誰も居ない、
ということはないんです」

私は車の後で(私は誰もおらんけどな、、)
と黙って聞いていた。
家に帰って誰かいる、ということが
自己紹介の始めに入る事項であることに
少なからず落ち込んだ。

男性の自宅は築年数のたった一軒家だった。
さほど手入れのされていない庭には
日よけ蓋のついたメダカの鉢があり、
ひょろひょろと伸びたミニトマトには2つ3つ実がなっていた。

2階にある踊り場には小さな炊事場が備えつけられ、
非常用持ち出し袋が隅に置いてある。
招かれた一室で男性は丁寧に冷たいお茶をいれてくれた。

4畳半ばかりのその部屋に飾られた沢山の写真、
それらはほとんどが亡き奥さんとの写真だった。
まだ若くふっくらとした夫妻の写真、
旅先で買ってきた土産の数々。

工芸品を買うべくやってきた友人と品定めをしながらも、
部屋に漂う奥さんの気配に呼吸が浅くなり汗が出た。

聞けば男性も数年前に癌になり入院していたという。
もう助からないと思い、妻のところに行くのだ、
と覚悟していたら意外にも快方に向かったそうだ。

「妻と自分の干支の置物なんです」
仏師が彫ったという未と午の木彫りを見た時、
この男性が私の夫と同い年であることを知った。

夫と違い、生き延びた目の前の男性を、
しかしこの人の時間は止まっている、と思う。
男性はこの部屋で日々奥さんと話しているのだろうか。

最後まで一緒に住んでいるという義母の気配は無く
エアコンの作動音だけがその存在を感じさせるものだった。

「世の中には色んな人がいるなあ!
 今日はすごい人に会ったなあ!
 (夫婦そろって癌になるなんて)」
とあっけらかんと感嘆する友人に
「世の中にはもっといろんな人がいるよ。
 すごくまっとうな人だったやん」

そう返しながら、
自分の声を遠く感じた。

posted by えるか at 00:09| 思うこと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする